■OBERON / A Midsummer’s Night Dream : Deluxe Edition
(2CD / Grapefruit CRSE G0900 /2021.4)
(2CD / Grapefruit CRSE G0900 /2021.4)
オベロンの『A Midsummer's Night Dream』は、1971年に99枚限定で制作されたプライヴェート・プレス・アルバムで、英トラッド/フォークのコレクターにとっては喉から手が出るほど欲しい1枚だ。レコード・コレクター関連の雑誌で名前は聞いたことがあるが、実際に音は聴いたことがなかったという諸氏も多いのではないかと思う。そんな超貴重なアルバムが英グレープフルーツ・レーベルからさらに貴重なライヴ音源を含む2枚組のデジパック仕様でリイシューされた。彼らの音源はこれまでに同レーベルの3枚組コンピレーションCD『Dust On The Nettles』(CRSEGBOX030)と『Sumer Is Icumen In』(CRSEGBOX083)で発表されたが、その音源がマニアの間で話題となったことが、このフル・アルバムのリイシューに繋がったようだ。
内容はプライヴェート・リリースらしく、きっちりとしたプロダンション・ワークは施されてはいない。演奏もそれほど上手いとは言えないが、楽曲は魅力的で、確かによくある“貴重だがたいしたことはないアルバム”とは違う。きっともう少し制作費をかけて録音していればもっといいアルバムに仕上がったのではないかと思う。部分的にはペンタングルやスプリガンズ、そしてたまに出てくるプログレ風味は、メロウ・キャンドル、チューダー・ロッジを想起しなくもないが、素朴で牧歌的な作品はもっともっとプリミティヴだ。
女性ヴォーカル、フルート、アコースティック・ギター、ヴァイオリンが紡ぎ出す繊細でオーガニックなサウンドは、60年代末から70年代初頭にかけてのなんでもありのプログレッシヴ/アンダーグラウンド・エラにおいては、十分に聴くに耐えうる作品ではないだろうか。いずれにせよ、お蔵入り、あるいは小ロットのプライヴェート・プレスのためにこれまで陽の目を見ることがなかった作品がこういう形でCD化されるのは嬉しい限りだ。ある評論家は「プレスされた数枚のうち少なくとも1枚は大英博物館に保存すべきだ」と述べているらしいが、僕はそうは思わない。なんでもかんでも幻の名作というのはコレクターの悪いところだと思う。(Q.I.)
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