■T.2 / It’ll Work Out In Boomland

■T.2 / It’ll Work Out In Boomland
(3CD / Esoteric Recordings ECLEC 32753 /2021.3)
 T.2はザ・ガンに在籍していたピーター・ダントン(vo, ds)がブルドッグ・ブリードのキース・クロス(key)とバーナード・ジンクス(b)らとともに70年に結成したグループで1971年7月にデッカ・レコードから唯一のアルバム『イット・オール・ワーク・イン・ブームランド』を発表している。本作は同アルバムに92年に発掘発売されたデモ作の『セカンド・バイト』(97年に『T.2』としても発売)と、同じく2012年になって陽の目を見たお蔵入り作品集『1971-72』をカップリングした3枚組のCD。ただし、『1971-72』は、キースとバナードが脱退してからの音源で、二人の代わりに、ザ・ハード、ジュダス・ジャンプを経たアンドリュー・ブラウン(g)とジョン・ウィア(b)が参加している(バーナードは1曲のみの参加)。
 彼らのサウンドはブリテッシュ・ロックらしい繊細さとハードな面をあわせ持ち、ピンク・フロイドやジミ・ヘンドリックスなどから影響を受けたと思しきアンダーグラウンド臭を強烈に放っている。それでも、直後に訪れるプログレッシヴ・ロックの到来を予感させるような実験的な音楽性は、同時期に活動したヴァーティゴやハーヴェストのアーティストとともに、十分に時代の証言者になり得るものだ。特にディスク1収録の8分越えの楽曲「No More White Horses」の憂いを帯びたサウンドは、朽ちていく美を楽しむ英国庭園そのもの。ふとした瞬間にピンク・フロイドの『原子心母』やスパイロジャイラの『ベルズ、ブーツ・アンド・シャンブルズ』さえ思い起こさせる名演を聴くことができる。彼らの演奏そのものは決して技巧的ではないが、70年代初頭の英国でしか出現しないロック・サウンドは、70年代の英国に魅せられたブリティッシュ・ロック・ファンの心を捉えて止むことはないだろう。T.2を去ったキースは、のちにピーター・ロス(vo, g)とのユニットを結成し、デッカからこれまた素晴らしいジャズ・オリエンテッドなフォーク・アルバム『ボアード・シヴィリアンズ』(72)を発表。ピーター・ダントンはソロとして活動し、デイヴ・エドモンズのプロデュースでシングルをリリースした。
 本作のリリースは決して手を抜くことはない編集とリマスター作業で知られる英エソテリックから。50年を経て蘇るブリティッシュ・アンダー・グラウンドの秘宝、T.2の魅力が詰まった作品集だ。(Q.I.)